往時雑感
清水の景色(一)
清水は海側は駿河湾に面し、山側はまわりをぐるりとみかん山で囲まれています。
日中暖められた空気は駿河湾のおかげでさめにくく、まわりの山のおかげで逃げません。温暖な気候のため、冬でも山に雪を見ることは一度あるかないか。
ところが、この冬は「あ、また山が白くなったね。」と、それが朝のあいさつになる日が何回かありました。
── みかんとお茶
近くの山はほとんどみかん山、ちょっと見えにくい後ろの山がお茶畑のある山です。清水にとってはめぐみの山です。
山の色が白く変わって“ああ、そこに山があったんだな”と気がつかされるのです。私などは山のある景色にほっとします。それでも、ふだんはその“自然のめぐみ”のありがたさを忘れています。
清水へ立ち寄られた客人は「気候もよく景色もよくて、一度住んでみたいところですね。」とほめていきます。
── 生活を支えている山
その山も、まるで実在するバベルの塔のように、緑の山肌をコンクリートの農道が走っています。
又、十年程前、清水市(現在は静岡市清水区)が公害防止策定地域として、「あなたのところは空気が汚れていますよ。」と不名誉な指定をされた時、この近き山々は汚染拡散防止の“壁”にされました。
生活の糧にもなってくれているめぐみの山ですが、いつまで我慢をしてくれるでしょうか。
何回も白くなったこの冬の近き山々を見て、私をはじめ、めぐみのありがたさを忘れている人間の変わり様を考えさせられました。(H)
編集後記
▶︎「冷凍保存の体外受精卵──初の赤ちゃん誕生・豪メルボルン」(’84 4.11 朝日新聞)という記事が目にとまった。「また父親の死後の出産、冷凍受精卵を他人の子宮に移植して父母の死後、子供が生まれるといった新しい事態も可能となる。」という注釈が付け加えられていた。
▶︎前後して、「遺伝子工学使った医薬品──製造基準を通知」(’84 4.3 朝日新聞)「生命工学の農業への活用──産官学連携で効率化」(’84 4.13 朝日新聞)という記事もあった。
▶︎これらの報道は、科学技術の進歩が我々に新しい未来を約束してくれるかの如き印象を与える。が、果たしてそうであろうか。
▶︎生命誕生に加えられた科学のメス。心ある宗教者は生命への冒涜とうけとめるだろう。恐ろしいことは、科学の力が人間を何かに作り変えられるだろうという幻想が支配することではないだろうか。(S)
第5号 1984年1月25日