「土と腸」三保製薬研究所物語(八)
── 生きがいと仕事
○農薬の仕事をはじめた頃は、時間から時間までという働きではなく、朝から晩まで、一日中働いていた、と聞いているのですが。
●石ケン工場を買収して、いよいよ農薬製造をはじめる時、食べる時も、ねむる時も、機械のこと、装置のことで頭がいっぱいだった。本当に責任をもってやろうとするなら、頭の余裕というものはないはずだ。
個人の仕事なら、とうにやめてしまおうと考えた。共同の仕事故に、責任の重大さを考えるとやめる訳にいかない。サラリーなどの考え方では、時間から時間まで働けばいいだろうと、軽く考えるが、僕らはそうでなかった。
○これが自分の仕事だと考えれば、時間は気にならない。しかし、多くの場合、対価を求めるための仕事であるため、仕事に全てを投入するということにならないのでは。
●いや、自分とは何かということだ。食べ物に恵まれてブラブラしているのが自分であるかどうか。生きがいというものは誰しも考えるわけだが、何かをやるということになる。そうすると、仕事は自分、自分が仕事だ。区別はつかない。それが本当の自分だ。それが一体である人ほど偉いと思うね。
── 遊びも仕事のうち
○仕事と職業の違いというのか、お聞きしていると、仕事というものを広い意味のものと、考えておられるのですね。
●広い意味のものでなけりゃいけない。生きがいのある仕事ということになるとそういうことになる。仕事とは、ことごとくは自分の仕事ではあるが、公の仕事と変わりはない。だから、休養の時間というものはない。休養そのものが、仕事の内のものだ。遊ぶことだって仕事の内のひとつだ。だから遊び方をよく知っていなければならない。哲学的になってしまうが、考え方としては、そういうところへいってしまう。人によっては、長生きをしたといっても、時間的に短い人だってある。
── 仕事とは人と共にする
○しかし、実際には、働くことを苦痛に感じている人が多いのでは。
●自分の体に適合する仕事をやればよい。苦痛があったら長続きしない。一生の仕事ならば、一生のためになる仕事。もう一つ、条件として考えることは、自分だけではないということだ。仕事とは人と共にするということだ。そうでなければ人間の価値がない。
(To be continued)
語り手 花澤政雄(三保製薬研究所 創業者) 1982年2月7日