往時雑感
古くて新しい病因説
下の図は「食物繊維と現代病」自然社発行―D・バーキット/H・トローウェル編に掲載されていたものを転図したものです。
腸の生理学への食餌性繊維質の効果をまとめているものなのですが、著者らはT・クリーブの仮説(人間は繊維質とタンパク質が分離しがたく混合した少量の炭水化物を食べるように進化的に適応していることにそぐわないため、病気を誘発する)から出発し、K・ヒートンのこの図などを参考文献に、彼ら自身の研究を加え、食物の精製が実に病気の著しい原因であるという結論を導いているのです。
著書は専門的な内容になっていますので少々読むのに努力するのですが、この図を念頭において最近の新聞を読み返してみますと、次のような記事がよく目につきます。
日本の子供は、かむ力が弱くなっている―S61・6/4毎日―。東京医歯大の漥田金次郎教授は「やはり子供に軟らかくて消化が良い食べものばかり与えるからだと思います。かまずに飲み込める食べ物は、かむ機能を伸ばすにはよくありません。もっと歯ごたえのある物を子供に食べさせること。乳歯など表面が擦り減るぐらい使えば、あごがよく発達し歯並びもよくなり、虫歯も減ります。」
医療設備より正しい食生活、五分づき玄米で、お年寄りがメキメキと健康回復。町田市の老人ホームの“食事革命”の成果が話題になっている―S60・9/11毎日。ホームの診療所長、中山光義医師は「五分づき米に変えてからは健康そのものになった。失禁などで下着を汚すことがなくなり、ボケの進行が止まった例もある」
「便秘は苦しいだけでなく、恐ろしい大腸ガンのサインです」S60・11/1朝日。越谷市立病院の坂元一久医長は「大腸ガンが発見された人、五十人の食事内容を調べてみたら、慢性便秘の人と共通の特徴が浮かび上がりました。食物中の繊維質の量が、普通の人は一日五グラム以上とっているのに、その半分くらいなのです。繊維分が不足すると、便の量が少なく、しかも固い便になります。従って便秘がち。そして腸内でできる発ガン物質が長時間排せつされずにたまるので、大腸ガンになりやすいと考えられます」
大腸ガンがモーレツな勢いで増えている。食生活の西洋化が原因とみられている―S61・6/20毎日。動物性の脂肪やタンパク質を控えめにし、緑黄野菜を多くとるのがいい。
生体微量元素は、三大栄養素に負けず劣らず健康にとって大切なものである―S60・9/4日経。京都大学の糸川嘉則教授は「これらは骨や歯の構成成分(カルシウム・マグネシウム・リンなど)となったり、体液の成分(カリウム・ナトリウムなど)、タンパク質の酵素の成分(鉄、コバルトなど)として重要な役割を果している」
これからもわかりますように、これまで注目されなかった繊維質、その生理的機能の有効性が見直され、また、微量元素の役割が知らされるようになったことは、食物を全体食としてとることがいかに大切かが認知されたことと思います。
さて「食物繊維と現代病」の結びの考察では、高度に製粉した炭水化物食の消費が原因していると考えられる疾病について上の図でまとめられていました。また訳者の阿部岳氏のあとがきは考えさせられる指摘でした。
「食餌性繊維質の欠乏は現在原因がよくわからない多くの疾病の原因の一つであることが示唆された事実は重大である。より栄養価の高いものへと食品を濃縮し、豊かさを追求した。そして、このような思考方法は人類にとって望ましいことであると、堅く信じられてきた。このような価値観は食物文化に留まらず、今日、他のあらゆる方面にあまねく行き亘(わた)っている。快適なもの、重宝なものへ耽溺(たんでき…夢中になって、それ以外の事を顧みないこと)していく人間へ科学が示したひとつの戒めと言えよう」(H)
編集後記
▼一つのものをありのままに受け入れる。たとえば子供です。不思議で純粋で、手ごわい。扱い易いようにと、精製するように管理する、増々不消化になり、子供の個性を小さくする。(H)
第19号 1986年7月1日