「土と腸」三保製薬研究所物語(九)
── 農薬、いまむかし
○農薬の製造を始めた頃と今とではどう変わりましたか。
●考え方が変わってくる。医薬品と同じで、ほんの僅かな薬で足りるのだが、数が多くなってきた。病気を治すための医薬品を多くして、どうすればもっと儲かるのか、利潤というものとくっついてしまうからおかしくなる。
○当初は農業の現場を知っている人が農薬をつくる仕事をしていたが、今は、研究所の研究者にしても、上部の経営者にしても、農業の現場から離れてしまっているのでは。
●作物の栽培技術や気象条件など全然知らない人があっても、薬をつくることに専念する人があってもしかるべきだ。専門家することも又必要だ。
── 長所短所の交錯するところ
○農薬禍が問題になっていますが、この点はどうお考えでしょうか。
●農薬には良い点と悪い点がある。人間の考え方もそうだが、必ず長短がある。長短が交錯する丁度うまいところへいくのでなければいけない。唯、理屈ではそういうことは言えるが、実際問題としては非常にむずかしい。相手は作物だから、作物を管理する人の考えだ。その人が必要として農薬を求めるならば、供給するのが農薬生産者の仕事だ。必ずしも平行していくとは限らない。長所と短所の闘いだよ、いつも。だからといって、将来のためにかんばしくないといって、やめようとしてもやめられない。
○しかし、実際は農薬が人体に、悪い影響を与えること、自然の生態系のバランスを崩していることが指摘されています。
●そういうチグハグに思える点が各方面にある。そうならないようにもっていくのが責任者の考え方だ。農薬そのものの研究、それをいかにして使用するか、という管理者の頭脳の問題が出てくる。
── 道理を極めること
○人間の能力には、バランスを保てる余力が残っているかどうか、疑問に思われることがありますが。
●残っていないかもしれないし、残っているかもしれない。それを極めなければならない。極めてはじめて前進できる。だから、やくたいもない、なんでそんな仕事をと思うものもあるかもしれないが、そういうものがあってはじめて前進できる。そこまでいくと、農薬のことというよりも、人生観になってしまう。
(To be continued)
語り手 花澤政雄(三保製薬研究所 創業者) 1982年2月17日