「土と腸」三保製薬研究所物語(十二)
── 天敵利用と農業
●高いところから見ると、病気とか害虫を予防する農薬だけでなく、自然に、そこに予防できるものがなければならない。
イセリアカイガラ虫が一時大量発生して、霧を吹いたようにミカンの木が白くなったことがある。このまま放置すれば、木は枯れてしまう。その時、よく調べて見ると、イセリアカイガラ虫を食う虫がいる所と、いない所があることが判った。この敵虫が、ベタリアテントウ虫だ。ベタリアテントウ虫が発生しているところでは、イセリアカイガラ虫がだんだんいなくなる。これが自然だ。
ルビーロウカイガラ虫という、あずきのような色をした虫が発生すると、松ヤニ合剤を撒布しなければいけないが、松ヤニ合剤を撒布しなくても、ルビーロウカイガラ虫がだんだん少なくなる。これはどういうわけかというと、ルビーアカヤドリコバチがこれを食って減っていく。農薬はいらない。
ミカンの害虫では、イセリアカイガラ虫、ルビーロウカイガラ虫、ヤノネカイガラ虫が三大害虫である。これらの敵虫がいなければ、ミカンの栽培はほとんどできない。これは非常に大きな問題だ。今日まで農作物の栽培ができるのも、敵虫のおかげである。そのあたりを、技術者としてはよく考えていかなければいけない。
──化学的防除と生物的防除
●病害虫の発生は、地方的に見た場合、必ずしも一律ではない。又、害虫を食う寄生虫も普遍的にいつも発生するとは限らない。その時の天候とか遺伝等のために、ある地方には発生し、別の地方は発生しない。
イセリアカイガラ虫の発生の盛んなところへは、別の所からベタリアテントウ虫を捜してきて、方飼する必要がある。ミカンの木が真っ白になる程、イセリアカイガラ虫が発生しても、ベタリアテントウ虫を方飼すると、一年か二年のうちに、いなくなってしまう。
これも害虫駆除の一つの考え方として重要なものだ。技術者が敵虫をうまく利用するということになれば、農薬はいらないということになる。
日本の稲作にしても、果樹にしても、農業がこうしてすすめられるということは、自然との闘いだ。必要があれば農薬の撒布をする。又、地方では、どうしたら害虫を食べてくれる害虫の繁殖ができるか、そういう事を同時に考えつつやっていかなければいけないという事だ。
(To be continued)
語り手 花澤政雄(三保製薬研究所 創業者) 1982年2月15日