往時雑感
“ニュースをおう”(二)
《豊かさの中の不安とは》
「われわれ人間は、これまで幾世紀もの間、切望してきた自由を手に入れた。…われわれは、輝かしい未来の戸口に立っている筈なのだ。ところが、今や自由に生活を楽しめるというのに、あれほど切望した自由を安楽から生活の意味と目的を得られず、失望して深い挫折感を味わっている。…われわれの多くは、むなしく自己実現を切望し、豊かさの中に、不安気に立っている。」(ブルーノ・ベルテハイム)
現代文明の中で育まれ、現代人を次第に支配しつつある「豊かさの中の不安」は、若者にどう反映しているであろうか。
「かつては、卒業できるか、就職できるかという不安だったが、いまは卒業してしまうのがこわい、就職してもうまくやっていけるだろうか、という不安が目立つ。」(1982年6月13日 朝日新聞 大学生のカルテ)
卒業間近の学生の自殺が増加しているという。「自殺名門校」の京大では、’81年の十一人を最高に、この一〇年間で六七人にのぼる。東大では’71年から’80年の一〇年間に五七人。
「一人で行くのがこわいんです。親にどう話せばいいかわからないし。」「生徒がウソをついたのが親にバレ、しかられて、家出でもしたら僕の責任になりますから。」「僕の指導の弱さを突っ込まれないかと、ヒヤヒヤしてました。」関西の有名私大を「全優」で卒業し、’79年春百十五倍の難関を突破して手に入れた、新任中学校教師の姿である。(1982年10月4日 朝日新聞 若い教師)
「ともかく、応用がきかない。優等生だったせいですか…。ペーパーテストに勝ち抜いてきた世代のせいなんですか…。」(1982年10月3日 朝日新聞 若い教師))
「問題なのは、両親や祖父母の過保護のため、自らの意思で物事を考え、行動する習慣に欠けた様な若者……。」「母子の“閉じこもり社会”、友達との“競争社会”」(1982年6月20日 朝日新聞 大学生のカルテ)
「成熟拒否症」「母原病」などと言われるような、表面に現れている事実の指摘はうなづける一面はある。
しかし、ことはもっと深刻なところで起こっているのではあるまいか。
ひとりひとりの人間としての生き方、あるいは、現代文明の成立の構造、社会の在り方などを問い直す問題はありはしないか。
編集後記
▶ 三保通信は、スイマグのご注文を戴いた方々に郵送しています。先日は、何名かの方から「他の人にも読ませてあげたい。まとまった部数を送ってほしい。」との励ましのお便りを戴きました。ありがとうございました。
▶ 「家庭内暴力を治すには、他人の冷たさを教えればいい。」というのは、話題の戸塚ヨットスクール校長の弁。
▶ 映画「家族ゲーム」は、「中流化」した日本の家族(家庭)風景である。それは、対話と笑いの消えた「倦怠感につつまれた日常」であり、身内にまで浸透した「他人の冷たさ」とは言えまいか。
▶ 私たちは、この事件で何を見なければならないのでしょうか。